考察雑記帳  Study

 ドイツ戦車の装備品を考察してみました

スコップ Spade

 今回のお題はドイツ戦車の車載工具の1つである「スコップ」のお話です。
 スコップの他にシャベルの表記があり、地域や業界などではその形状や用途により使い分けがなされ、また、英語圏でもscoop、shovel、spade、trowelで区分されているようです。ちなみに当時のドイツ語表記はspatenであり、「PANZER TRACTS」での英語訳ではspadeを用いていますが、ここでは「スコップ」と表記を統一させていただきますので、ご了承ください。
 では、知っているようで知られていないスコップについて1941年製の実物を所有されているSTEINERさんから情報提供をしていただきましたので、ご紹介します。
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オイル仕上げについて
 木材は樹種によって特質があり、用途によって使い分けられ、また仕上げも異なります。
<例>
○弾薬木箱:松材
 オイルペイント(ラッカー塗料も有り)やオイル仕上が施されました。
○手榴弾の柄:ブナ材
 使い捨てなので、仕上げは施してありません。
○スコップの柄:タモ材
 その使途からキズが付いたり剥がれが起こりうる塗膜を形成する塗料による仕上は施されていません。しかし、タモ材はしなやかで強度がある反面、水に弱い(塗れたり乾いたりを繰り返すと変形や腐食する)特性があるため、アマニ油などをすり込むオイル仕上げが施されていました。
 オイルステンは、基本的に着色のための物で、木材保護にはあまり寄与しない上、木目の向きによって吸込みが異なり、綺麗に仕上げるのには手間と技術が必要なので、軍用品向きとは言えません。ただし、簡単に色が付けられるので、レストア時には使われている様です。
 タモは元来かなり白っぽい木肌ですが、オイル仕上げを施すと若干色が濃くなります。また、日常のメンテでオイルを塗り重ねる事や経年変化で色は濃くなっていきます。
 話を戦車に限った場合、当時の戦車の平均的な寿命から考えて、スコップの柄に濃い色を塗る事には疑問があります。もっとも「模型映え」と言う意味では否定はしません。


 上のスコップは経年変化で柄が赤茶となっています。何故コレを経年変化と言い切れるかと言えば、私がコレを入手した30年前は、柄の色は下の物の様にもっと明るい色だったからです。

 今回車載用としたスコップは、キューベルヴァーゲンやシュビムヴァーゲン等で使用された物です。戦車用は110cmの大エンビかもしれませんが、違いは柄の長さが異なるだけです。また、ブレードはメーカーや製造時期でスポット溶接が導入された物もあります。
 あと、画像を見て頂ければ分かりますが、この個体のブレードは非対称形になっています。これは当時、掘削しやすい様に何度も研いだためで、製造時は対称形だったと思われます。
 また、軍では塗装のリタッチ、リペイントは保守整備の一環で、普通に行われていました。
 以上、参考にして頂ければ幸いです。 ****************************************************************************
※注 釈  
・タモ材は野球のバットなどに使用されています。なお、ホームセンターで販売されているスコップの柄はタモより白っぽい樫(かし)材が一般的なようです。  
・リポート中の「エンビ」とは漢字では「円匙」と書き、旧日本軍や自衛隊などが呼称するスコップのことです。

 モデラーとは違う軍装研究者の観点によるリポートはいかがでしたか?
 小生が着目したポイントは次のとおりです。
・柄は中央部が若干太くなっている
・柄は白っぽいタモ材が使用され、オイル仕上げである
・柄は経年変化で赤茶になるようで、新品ではもっと明るい色である
 また、STEINERさんには別に細部写真を提供していただきましたので掲載します。
▼ブレード(刃)の裏側。左上に製造年を示す「1941」の刻印が確認できます。

▼ブレードはリベット留めされています。

▼ブレードと柄の接合部分で、モデラーならば「エッチングパーツと同じだ」と思わず言ってしまいます(笑)。

▲プラモデルのパーツでも、このような形状に再現しているものが見られるようになりました。
▼ブレードの柄への取付角度が参考になります。

▼特徴的な柄の後端の丸い形状

 さて、ここでご紹介した全長85.5cmのスコップはキューベルワーゲンなどの軽車両用に見られるもので、戦車用のものよりは短いようです。
 そこで、シカゴレジメンタルスさんにご協力をいただき、柄の長い工兵用のものを掲載します。
▼スコップ全体

▲工兵用のスコップ(実寸約110cm)を35分の1にすると31.4mmとなり、各自で採寸していただけるとわかると思いますが、模型のスコップパーツとほぼ同じ寸法になります。
▼ブレードの裏側の金具の形状がSTEINERさんのものとは異なります。

▼当時のイエロー系の塗料が残っているようで、これまた貴重です。

▼柄は後端になるにつれ細くなっており、中央は太くなっていないように見えます。

▼モーゼルKar98k(スタンダードモデル、全長110cm)との比較で、長さがほぼ同じであることが分かります。

 いかがだったでしょうか?  例え実物であったとしても経年変化などで木部の色が変わる事が分かりました。
 そのため、ネットで簡単に調べることができる現代においては、画像から得られる情報を鵜呑みにするのではなく、その背景を正確に知っておく必要があると改めて感じることができました。
 また、模型での木部の色の表現については、「正確性」を重視するのか「模型映え」を重視するかは、各自がそれぞれ判断していただきたいと思います。
 最後にご協力いただいたSTEINERさんと(株)シカゴレジメンタルスにつきましては、改めてお礼申し上げます。
 なお、掲載写真は両者のご了解をいただいて掲載しているものであり、無断でブログ等に掲載しないようにお願いします。(2020年7月31日掲載)
 ご意見、感想などがありましたら、掲示板にお願いします。
写真引用元のシカゴレジメンタルスのスタッフブログ
http://regimentals.jugem.jp/?day=20180219
シカゴレジメンタルスのHP
http://www.regimentals.jp/index2.html 

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