考察雑記帳  Study

 ドイツ戦車の車載消火器をまとめてみました

車載消火器(まとめ) Fire Extinguisher

 この考察雑記帳では戦車に搭載されている車載消火器についてこれまで2度にわたり考察してきましたが、個人的に整理が必要と感じたので備忘録としてまとめてみました。(以前の記事と重複する部分があることをご了承ください。)
 この車載消火器には大きく3種類が確認され、装備車両は改修車両などを除き、一般的なものを示し、事例として記録写真を掲載するとともに、模型製作の参考になるように最近のキットパーツを比較してみました。(パーツの善し悪しは記録写真を参考に各自で判断してください。)

■テトラK3S消火器(Tetra K3S Löeschgeraet)
 総合防災メーカーとして現在も経営を続けているドイツのミニマックス有限会社(Minimax GmbH)の製品で、大戦初期の戦車に搭載されていました。
 「テトラ」(Tetra)とは「4」を表すギリシャ語で、ここでは「四塩化炭素(Tetrachlorkohlenstoff)」という消火薬剤を意味します。当時のドイツの車載消火器のラベルを見ると多くが「Tetra」と表示されていますが、メーカー名ではなく、消火器内の薬剤成分が四塩化炭素であることを示しているわけです。
 なお、この四塩化炭素は消火剤や冷却材としては優れていますが、毒性が強いため、現在は使用が厳しく制限され、日本では劇薬に指定されています。この毒性は戦前から知られており、テトラという表示は取扱いにおける注意喚起の意味があったのかもしれません。(近年、コレクションとしてこのような古い消火器がオークションサイトなどで取り引きされ、残っていた薬剤により事故があったようで、現在は取引対象から外れています。)
また、「K3S」の意味は同社の1935年のカタログによれば、「K」は車両火災用(für kraftwagenbrände)の頭文字で、「3」は3リットルの容量を、そして、カタログには載っていませんが、「S」は特殊消火器(Sonderlöscher)を意味しているものと考えられます。

●装備車両
 Ⅰ号戦車A型、B型  Pz.kpfw.I Ausf.A, B
 Ⅱ号戦車 a型〜 c型(増加試作型)  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.a-c
 Ⅲ号戦車A〜D型(増加試作型)  Pz.kpfw.Ⅲ Ausf.A-D
 Ⅳ号戦車A型、B型 など  Pz.kpfw.IV Ausf.A,B
●装備例
▼Ⅱ号戦車b型 Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.b

▼Ⅱ号戦車b型 Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.b

▼Ⅱ号戦車c型  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.c

▼Ⅱ号戦車b型  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.b

▲2tジャッキと比較して大きい消火器であることが分かります。
▼Ⅳ号戦車A型 Pz.kpfw.IV Ausf.A

▼Ⅳ号戦車A型  Pz.kpfw.IV Ausf.A

▼Ⅳ号戦車B型  Pz.kpfw.IV Ausf.B 

●キットの比較
 ミニアートはⅢ号戦車B〜D型に付属の消火器パーツ、ブロンコはⅢ号戦車A型のパーツ、パンツァーアートはレジン製パーツで、比較のために1995年製タミヤの「Ⅳ号戦車 車外装備品セット」(35185)のパーツを並べてみましたので、記録写真と比較してみてください。


■テトラK2S消火器(Tetra K2S Löeschgeraet)
 容量を3リットルから2リットルに減らして小型化したものです。
 なお、Panzer Tractsではポンプ式と解説していますが、ミニマックスのカタログによれば、高圧ガスのカートリッジが内蔵されていたようです。

●装備車両
 Ⅱ号戦車A型〜D型 Pz.kpfw.II Ausf.A-D
 Ⅲ号戦車E型〜J型 Pz.kpfw.III Ausf.E-J
 Ⅳ号戦車A型〜G型 など  Pz.kpfw.IV Ausf.A-G
●装備例
▼Ⅱ号戦車A型  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.A

▼Ⅱ号戦車A〜C型  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.A-C 

▼Ⅱ号戦車D型  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.D 

▼Ⅱ号戦車B型  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.B 

▼Ⅱ号戦車A~C型  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.A-C

▼Ⅱ号戦車A~C型  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.A-C 

▼Ⅱ号戦車A型  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.A

▼Ⅱ号戦車c型  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.c 

▲K3S用の取付金具に無理矢理K2Sを取り付けていることから、その長さの違いが確認できます。
▼Ⅲ号戦車E型  Pz.kpfw.Ⅲ Ausf.E

▼Ⅲ号戦車E型  Pz.kpfw.Ⅲ Ausf.E

▼Ⅳ号戦車F型  Pz.kpfw.IV Ausf.F

●キットの比較
 タミヤはⅡ号戦車A〜C型の付属パーツ、ドラゴンはⅢ号戦車E/F型のもので、取付金具はエッチングパーツ製です。ブロンコはⅡ号戦車D型のものです。


■統制型(標準型)テトラ消火器(Einheits-Tetra-Löescher)
 1942年1月にポンプ式のK2Sからこの加圧式消火器に換装するよう指示が出されました。
 これは規格を統一して複数のメーカーに生産に参加させ、生産性の向上とコスト削減を図ろうとしたものと考えられます。
 そのため、細部やラベルには差異が確認できます。この消火器は指示後、生産体制が整い次第、順次車両に装備されていきました。
●主な装備車両
 Ⅰ号戦車C型、F型  Pz.kpfw.I Ausf.C,F
 Ⅱ号戦車F型〜J型  Pz.kpfw.Ⅱ Ausf.F-J
 Ⅲ号戦車J型〜N型(J型は1942年2月生産分から変更) Pz.kpfw.Ⅲ Ausf.J-N 
 Ⅳ号戦車G型〜J型  Pz.kpfw.IV Ausf.G-J
 パンター、ティーガーなど  Tiger, Panther
●装備例
▼Ⅰ号戦車C型  Pz.kpfw.I Ausf.C



(2021.1.22掲載)

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